東京警察病院 副院長 河野道宏先生(前半)

doctor interview

脳神経外科の中でも非常に難易度の高い、聴神経腫瘍などの小脳橋角部腫瘍や側頭骨内腫瘍を含む頭蓋底腫瘍の手術。この難しい治療で全国有数の優れた実績を誇るのが、東京警察病院脳神経外科の河野道宏先生。中でも聴神経腫瘍の手術件数は同科が4年連続の全国最多(平成22年実績:95件)を誇るなど、日本を代表する脳外科医として確固たる地位を築いています。

この分野の手術には、高い専門性をもった医師はもちろん、麻酔科のサポートや術後のICUの態勢など、各分野のスタッフが協力しあう総合力が不可欠。全国一の手術件数を誇る裏側には、各スタッフの高い意識をベースにした、「チーム」としての優れた機能性があります。
河野先生が7年前に部長として就任以来、いかにして現在のチームを作り上げてきたのか。スタッフ個々のモチベーションの高まりや働きやすい環境づくりなど、プロセスの一端について伺いました。

大嶽医師「来た当初はやはり大変でした。科のスタッフも5人で、私自身まだ42歳の駆け出しの部長でしたしね。部下も若い人がほとんどで、手術もすべての段階を私自身でこなすわけですから、必然的に今の1.5-2倍の時間がかかっていました。それが変わっていったのが、やはり信頼できる部下が入り、また育ってきてからです。現在はスタッフも9人で、専門医も5名。手術では頭の開閉を部下に任せられるようになりました。同じ手術でも、今はスピードが格段に早くなっている。そのことが、手術件数の伸びにも表れていますね」

同院の脳神経外科は、難度の高い良性脳腫瘍や脳血管障害の開頭手術を河野先生と楚良繁雄副部長が担当。血管内治療を佐藤博明部長(脳血管内治療部)が受け持つ態勢です。たとえば動脈瘤における手術か血管内治療かの選択をはじめ、術前検査や手術でのプロセスも、スタッフ間の意志の疎通や判断基準にブレがないことで、あらゆる状況の中で常に適切な判断ができます。河野先生が就任以来培ってきた、上意下達によるしっかりとした意識とスキルの浸透が、現在のチームの高い機能性の土台となっているといえます。

「チームを作る上で、重視してきたのは朝のカンファレンスです。これは今も変わりません。部下であるスタッフが何を考えているか。治療方針や診断、本人の知識レベルと、患者の状態を把握する力のレベル、そして治療の正当性…。カンファレンスで彼らのプレゼンテーションを聞いて突っ込んでいくと、返ってくる答えと患者さんの状況とでその中身がほぼ分かります。自己流などの治療内容になっていないか、カンファレンスできちんとチェックしながら、スクリーニングを重ねていく。その積み重ねによって、チームとして個々が培うべき共通のセンスを浸透させていくわけです」

大嶽医師河野先生は、自ら率いるそうしたチームに欲しい人材として、明確な基準が念頭にあるといいます。
東京警察病院脳神経外科が公開する「後期研修プログラム」には、次のような一節が明記されています。『決して手先の器用さや知識の欠如を問題とせず、患者にやさしく、素直で礼節を重んじる、誠実で真面目な医師。周囲の人間との協調性も重要視する』。河野先生が考える、一貫したポリシーでもあります。

「一番大事にしているのは、何より患者さんにやさしい医師であること。それが一番です。技術はこちらできちんと仕込むわけですから、後から必ずついてきます。その意味で、最初から腕がいい人に来てもらいたいなどまったく思っていない。腕が未熟でも、患者に対して誠実な対応ができるとか、手を抜かないとか、脳外科医としての向上心や仕事へのモチベーションがきちんとある人。つまり、本当の意味でのプロフェッショナルになれる人材が欲しいということなんです。腕や経験年数ではない、大切な部分は、医師としての人間的な部分。これは、こちらがいくら教えてもなかなか鍛えられない資質の部分です」

本当の意味でのプロフェッショナル――。優れたチームをつくる上で、医師として必須の最低限の資質を考えたときに、一方で、いまの若い人材はその方向性を間違ってしまいがちな危惧があると河野先生は指摘します。それは、現在の研修医制度での問題点です。

「いま私のところに来てくれている人たちは、幸いにして人材として非常に優れたスタッフたちです。当初はいろいろと問題点はあったとしても、指導に時間をかけているうちに個々の意識も高まり、次第に良いチームになっていきました。一般論的には、今の若い人にとっては、研修医での現在のスーパーローテーションの制度が、状況を悪くしてしまった感があります。脳外科を志す研修医は他の研修医よりも一般的にモチベーションは高いと思われます。しかし、それでも前期研修の2年間は、スーパーローテーションが始まる以前のように、毎日病院に泊まり込んで患者を診るなど、医師としての姿勢の基礎作りができないシステムとなっています。また、脳外科医としてのスタートも遅れることになります。自分が目指す現場をしっかりと経験して、苦労すべきところは苦労する。鉄は、熱いうちに打つことが大事なんですが、それができないというのが現状です。また、脳外科医を目指す研修医自体が激減しており、若い医師が楽なほうに流れてしまう傾向があるように思えてなりません。医師として、自分がどうあるべきか。患者と向き合うために何がもっとも大切なのかを、忘れずにいてほしいと思います」

DOCTOR'S PROFILE
こうの・みちひろ
東京警察病院 副院長/脳神経外科部長・脳卒中センター長
1961年生まれ。国立浜松医科大卒。東京大学医学部脳神経外科に入局後、東大病院、都立神経病院、富士脳研病院などを経て、2004年6月から現職。07年4月から脳卒中センター長を兼務、11年1月から副院長。聴神経腫瘍・小脳橋角部腫瘍など難易度の高い頭蓋底腫瘍の手術で高い実績を誇る。

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